アトス山 1月21日
深夜の3時、まだ寝てる人たちもいたから音をたてないように、ベッドに足をぶつけないように部屋を歩いた。
大広間にはベッドがたくさん並んでて、並んだカーテンが夜空でぼんやりと青くひかってる。
ドアの暗がりでお爺さんがベッドに座ってる。
起きてたの?いかないの?お祈りにいくよ
真っ暗な中庭を歩く。
中心には正方形の教会があった。重い木のドアを開けて入ると暗がりに人が何人もいるのがわかった。
壁に描かれた聖者たちにキスをしていく。
木の椅子に座って手を組んでお祈りをする。遠くから聖歌が聴こえてくる。
修道院で1000年つづいてる生活。
ぼんやりと明るくなった廊下で巡礼の人たちと話した。
アフリカの学校にペンキを塗ったんだ
ボランティア?ツアー?いくらしたの?
1500Euroだよ
高いね…
メモリーだよ、ふつうはできない経験だから高くないよ
うん、そうかもしれない
アテネにいるんだ、来たら連絡してよ
アテネで連絡したハズだけど、返事は返ってこなかった。
イヴィロン修道院まで30km、歩いて6時間
海沿いをずっと歩けば着くから
イヴィロンには日本人の僧侶がいるよ
ラヴラ修道院の僧侶はそういってた。
ひとりで島を歩いてく。
右側にはエーゲ海。ちいさな土の道。
10kgのバックパックは今はまだ軽いけど、6時間たったら重くなってそう。
歩いてると赤いトラックが通った。右手をあげる。トラックはすこし進んで停まったあとバックでもどってきた。
真っ暗い荷台はガタゴトだったけども歩くよりずっとうれしい。
赤いトラックは別の村へいくみたいですぐ降ろされた。坂を上ってくトラックに手を振ってわかれた。
バックパックを背負ってまた歩いてく。
きのうバンで通りすぎた川は足をびちゃびちゃにした。
あれかな?あと10kmくらいかな?
廃墟のような石でできた家屋をいくつか通りすぎてく。もしかしたら今でも修道僧がいるのかもしれない。
数時間して海岸のむこう、丘をこえると視界がひろがった。
ふいにイヴィロン修道院は姿をあらわした。
ずっと丘にかくれてたんだ…こんな近くまで来てたなんて。
それは海沿いなのにまるで草原に建ってるようにみえる。その風景はまるでロールプレイングゲームみたい。
ついてこいとカッコいい僧に導かれた部屋は自分ひとりだった。むこうはシャワールームだよ。
30km歩いてきたって行ったらびっくりしてた。
すぐにシャワーを浴びた。
お湯がすごいいっぱい出る。パキスタンは全然出なかったから、その水量がうれしい。
本を読んでたら鐘がなった。
階段をおりて教会へはいった。
お祈りが終わって教会をでたら日本人の僧の人に声をかけられた。
食後にお話しがあるみたい。私が同じ日本人だから、とかは思わなかった。国籍で特別扱いされる必要もなかったし。
食事はパスタでめちゃめちゃ美味しかった。
仕事をたのまれて石のテーブルを拭いてお皿を片付ける。テーブルを拭いてくけども綺麗なテーブルと汚いテーブルのちがいがわからなくてわたわたしてた。
その人の部屋でコーヒーを飲ませてもらった。お菓子がおいしい。
すごいひさしぶりの日本語。
日本人の宗教観は神頼み。
世界中を旅してそれが間違っているのはわかるけども、自分に宗教とか何かしらないから。
だから、信仰の感覚がしりたい。
何時間も話してた。
いつのまにか夜の11時になってて、お祈りは2時からだった。
もう寝なきゃという言葉をきいて、すこし可笑しかった。