ギルギット 12月27日
冬のカラコルムハイウェイはカタカタ震えるほど寒くて。
それでも時々記憶が飛んでて、それは10分か、30秒かもしれないけども。
どんなに寒くても人は寝ちゃうんだね。
靴を脱いでシートの上で丸くなると少しだけ暖かい。
イスラマバードからフンザまでのバスはボロくて、窓のスキマから氷点下の風が吹き込んでくる。
舗装されてない道はガタゴトと揺れるけど、それはどうでもよかった。
はやく太陽がみたいよ。
昨日の夕方からずっと待ってるんだよ。
遠くに山脈のシルエットがうっすらと浮かび上がる。山の向こうが明るくなってきた。生命を感じてほっとする。
舗装されてない道をオンボロバスはガタゴトと走る。左は崖でコバルトブルーの川がどこまでも続いてる。
バスは転がり落ちていきそう。
木が一本も生えてないのは石の世界だから?コバルトブルーの川も美しい毒にみえるよ。
すこしずつ身体も暖かくなってきた気がする。
キルギットに着いたときはもう明るくなってた。カラコルム山脈に囲まれた青空のバスターミナルはバカみたいに開放的。
少年と手を振ってばいばいする。
歩いてたらガイドに声をかけられた。ティーをおごってくれる。今はオフシーズンだけど時々英語をしゃべらなきゃねって言う。彼は安い宿を教えてくれた。
スズキで行くといいよ
スズキ?
スズキは軽トラを改造した乗り合いタクシーのことだった。乗ったらいろんな人に話しかけられる。
パキスタンの人たちは好奇心が強くておしゃべりで明るい。
ある人は日本の大阪で働いてる兄と国際電話でつないでくれた。そしたら日本のTVはイスラムを悪くしか言わないですねって言われた。
だから、もっと日本人がパキスタンにくればいいのにねって言った。
ほとんどの日本人がイスラムに偏見まみれなのは日本のメディアのせい。
欧米の文化は映画や音楽で伝えられているけども、イスラムの国々のことはテロだけを伝えるから、1部の極端なことだけを繰り返し伝えてるから。
偏見とは無知のこと。
これでプリントしてるんだよ
こんな大きなプリンターで何を?
あれ、店のポスター
3mくらいのカッコいいオレンジ色のプリンターはお店に貼るポスターをプリントする。
彼は印刷屋さんだった。
スズキで仲良くなって連れてってもらった小さな工場には不釣合なほどのピカピカのプリンター。
きっと買ったばっかりなんだろうね。
宿の中庭の椅子に座ってたらハシシをタバコに巻いて渡された。
簡単に買えるの?
どこでも買えるよ、アルコールは買えないけどね
吸ってたら集中力がなくなってきた。うー、強い、これ。いろんなことに気がつかなくなってきた。
安心したいし眠くなって部屋にもどった。
目が覚めたらおじさんがブッダに連れてってくれるって。
街から少し離れた岩だらけの公園に2000年以上前の石窟があった。クルマで連れてってくれたけど、ふつうの公園みたいだった。
3人でわいわいと写真を撮ってた。
おじさんの家でBBQをご馳走になった。
いろんな人たちが家にやってきて挨拶をする。兄妹や親戚、近所の人たちまで。
アッサラームアレイコム
アレイコムアッサラーム
BBQは熱くて肉が手で鉄串から抜けない。他の人たちが笑いながら抜いてくれた。
熱くないの?
ナンで挟んで抜けば熱くないよ
なるほど…
これ漬けると辛くて美味しいよ
中央アジアは肉がめちゃめちゃに美味しい。
いつの間にかお腹いっぱいになったけども、お客さんだからって次々にご馳走を振る舞われた。
も、もうフルだよ
氷点下のパミール山脈、BBQの火に人は集まってくる。すごくいいなって思う。
暗闇に火だけが赤くて、周りの顔は隠れてわからなくなった。
声だけが聴こえてくる。
空を見上げれば満点の星空だった。