ソンクル湖 12月30日
ソンクル湖畔の冬の夜。
顔を布団から出すと冷気が刺さってすごく苦しい。
ストーブの火はぜんぶ消えちゃったのかも。
布団を二枚重ねてダウンまで着込んでるのにね。
きっとマイナス10℃ぐらいじゃないかって思う。
潜り込んで空間をあけて呼吸する、すごく息の湿度が布団を暖かくする。
でもトイレに行きたいんだよね。トイレは外にあるから…イヤすぎ。
あきらめて布団を出てタイパンツを脱いでマフラーにする。
何枚も着込んでユルタの外に出た。
あ、雪、吹雪。
寒いハズだよ…トイレあっちだったっけ。真っ白でなんも見えないよ。
トイレの方角に歩くんだけど10m離れたら自分のユルタも見失った。
やばい…凍死する…
死の感覚…ぞわってする。目の前から思考がなくなる。
すごく怖い。
雪の靴の跡をみながら自分のユルタにもどった。
並んだユルタに沿って歩いた。視界に何かないと遭難しそう。
トイレについたら鉄のドアが凍ってた。
中に入ると暖かくてもう出たくないなって思った。
足跡をたどって帰った。
布団を頭までかぶってもう考えないようにした。
朝、目が覚めて外に出ると銀世界でびっくり。
昨日まで枯れた草原だったのに…
遠くまで白い世界。すぐそこに雲が浮いてる。
お正月…ってなぜか思ったけど、ここは中央アジアのキルギス。
すごく寒くてユルタにもどって布団をかぶった。
朝ごはんだよってお婆ちゃん。別のユルタで孫の少年と3人で食事をする。
スニーカーって雪が浸みこんで冷たくなって痛くなる。ストーブの下に置いて雪を溶かした。
お婆ちゃんはよくしゃべって、少年は黙って食べてる。
少年に馬に乗せてもらった。
落ちそうでこわくて馬上で振り向けない。
お腹を蹴っても歩いてくれない。
もっと強く蹴らなきゃいけないんだけど、お腹が柔らかくてかわいそうで強く蹴れない。
しかたなく少年がだまって引っ張っていく。
ときどき前を歩いてる馬が巨大なフンを出すんだけど迫力があって目が釘付けになる。
ユルタで持ってきてたイヤホンを少年にあげた。
すごくうれしかったみたいでいろんな音楽を聴かせてくれる。
これはキルギスの、これはカザフスタンの。
私のiPhoneの音楽も聴かせたかったんだけど、バッテリーがあがってた。
気になってたこと。湖の真ん中に1本の道があって対岸まで続いてるようにみえる。
だからソンクル湖はふたつに分かれてるようにみえる。
朝、馬に乗った遊牧民がその細い陸をずっと歩いてくのをみてた。最後は目に見えないような小さな点になってた。
どこまで続いてるんだろう。
雪が溶けてきたから同じように歩いてみた。
ロシア語の警告が書かれた柵を越える。何もない世界。
遠くに無数の渡り鳥?が騒いでた。
広すぎて、でも音がしない。火星みたいって思った、行ったことないけど。
馬2頭もいっしょについてきた。
ありがとう。心細いから離れないでね。
振り向くとクジラみたいに雲が自分のユルタの上に乗ってる。
声届くかな。
たぶん聴こえないだろうと思って、大声でさけんだ。