ディヴリーイ 2月24日
20m前をおじさんが歩いてた。さっきからずっと私と同じ道を歩いてる。
もしかしたら彼もバスターミナルに行くのかも。
まだ太陽がのぼってなくて、真っ暗で、ぽつんぽつんとオレンジ色の街灯が続くトラブゾンの道。
左側に黒海が広がってるのがわかった。だって真っ黒い空間に建物がなかったから。
バスターミナルまではまだまだ遠かったし、始発が走ってるならバスを待ってもよかったかも。
それに暗くて怖いし寒いし。
でも、歩いてたら2回も眩しいバスに追い抜かれた。さっき乗ってればよかったし、もう歩くことに決めた。
バスターミナルは古かったけど、お店もやってたし、チケットも売ってた。
早朝なのにもう人がいた、みんなどこか遠くに行くんだろな。
いちばん奥でエルジンジャンまでのチケットが買えた。
まだ1時間ぐらいあるね、ベンチで座ってた。
トルコで最初に世界遺産になったモスクがディヴリーイって街にあって、その街に行きたい。
でも、いちばん見たいのは街をつなぐ鉄道の景色。トルコの山岳地帯を走る鉄道の景色がすごくイイって聞いてた。
だから、その鉄道に乗ってみたい。今日むかうエルジンジャンはその山岳鉄道の駅。
ターミナルに群れるバスたちはまるでクジラみたい。ターミナルに並んだ真っ白い巨大なクジラたちはぶつからないでゆっくりなめらかに動いてる。
バスは時間通りにターミナルを出て南へ走り出した。
標高がどんどん上がってるのかも。樹氷の貼りついた白い木の並んだ山は時々どさどさと雪を落としてた。
南に行けば暖かくなるって思ったけど、違うのかも。
途中で停まったターミナルはまるでスキー場みたいだった。
トルコの自然、中央アジアに負けないぐらいカッコいい。
雪の平原をバスは走ってった。
数時間後、どこまでも続くだだっぴろい平原のむこう。山脈に囲まれたエルジンジャンの街がみえた。
バスターミナルからエルジンジャンの中心まではだいぶ離れてた。
歩く距離じゃなかったからバスに乗ったんだけど、それが草原にぽつんとあるバス停でかわいい。
テキトーに乗ったからドコに連れてかれるかわからなかったんだけど、住宅街の中を走ったり、学校で生徒を乗せたり。
ぐるぐる街を走ってて、えーといつ中心街に行くの?
もうイイやで降りた。
郊外にある駅まで歩いてった。きっと旅行者とか観光客なんてほとんど来ない街なんだね。
でも、空は広くて青いし遠くの山脈はゴツゴツしてるし、すごい自然だよね。
無名で素晴らしい土地は世界にいっぱいあるよね。
駅でディヴリーイまでのチケットが買えた。
それがすごくうれしいんだけど、もうお金ないし、お腹も減ってた。
そういえば昨日の夜から何も食べてなかったっけ。
近くにATMないのかな?出発までにトルコ紙幣を手に入れて、どこかで食べたい。
でも歩いてもATMはぜんぜん見つからなかった。あれかな?あれかな?って建物から建物へ歩いてると、いつの間にか街の中心まで来てた。
やっと見つけたんだけど、もう歩いてつかれた。
小さな食堂に入ったらチャイをおごってもらった。いっしょにいた人たちにトルコ語をいろいろ教えてくれる。
イランやウズベキスタンもそうだったけど、トルコもおもてなしの国なんだね。
なんかエルジンジャンって街は大自然に囲まれてるんだけど田舎でなくて都会的な洗練があって、物静かな祭典をしてるみたいな空気がある。
1時間後、駅にもどれたけどトイレ行きたい。ホームを行ったり来たり、え?トイレないの?ないよって言われるし。
う、さ、さっき食堂で行けばよかった…電車はやく来ないかな?
やってきた電車に飛び乗って、トイレに駆け込んだ。
窓には何もない青白い湖と茶色い大地。
SFの世界みたい。
青白い水ってなんで白く濁ってるんだろ?青いミルクみたいな?
それがどこまでも続いてて非現実感。
電車は初めは10人ぐらい乗ってたけど、ひとりひとりって降りてって車両に少年とふたりになった。
ねぇ、故郷に帰ってきたの?
学校から帰ってきたの?
はるか渓谷の下、川沿いの小道を人が歩いてた。ごつごつとした巨大な岩に囲まれて、ぐにゃぐやと続く一本の道、今まで分岐なんてなかった気がするのに。
あの人はどのくらい歩いてきたんだろ?
何度もiPhoneのシャッターを押してた。
ディヴリーイまでの駅をカウントダウン。
どの駅も小さな無人駅みたいなのばかりで標高は1500mを超えてた。油断してたらディヴリーイで降りるの忘れちゃいそうだったから。
いつの間にか陽が静かに落ちてて外は青くなってた。
ディヴリーイに着いた。
駅をでたらタクシーに声をかけられたけど歩いてった。
駅の近くはさみしい住宅街。
歩いてると、ぽつんとかわいい宿をみつけた。
街の中心からは離れてるけど、すごく寂しくて穏やかな宿。
今日はホントにずっと移動してて、つかれたけどすごく楽しかった。