バトゥミ 2月22日
村に雪がふってる。門を開けたら一緒に犬もついてきた。
ほら、ダメだよ…家に入ってないと。
犬はずっと尻尾をふってついてくる。うーん…
朝早かったから、あいさつもしないで出てきた。だって寝てるかもしれないし。
でも、寝てるかもってのは嘘で。
ホントは雪がふって幻想的だったから。それを壊したくなくて誰とも話したくなかっただけ。
犬は…たぶん自分で帰れるよね。
南のバトゥミまで行けば、きっとトルコへいける。
村の広場に停まってるバスにはトリビシって書いてあった。
でも、買ったバトゥミ行きのチケットを見せたら大丈夫だって。
怪しいなって思ったけど乗り込んだ。
小さなバスは広場を走り出して村をはなれる。
せまい雪の山道を走ってった。窓の外、めちゃめちゃに寒そう。
あれれ、やっぱり東へ向かってる。東にはトリビシの街がある。
ドライバーのおじさんにバトゥミまで行くか聞いたら、行かないって。途中で乗り換えるみたい。
うーやっぱり。
…そろそろ降りないと乗り換えられないんじゃない?
しつこく何度もおじさんに確認してたら、ついに怒られた。
周りに何もない小さなバスターミナルで停まった。
ここで乗り換えるみたい。
ありがとうってグルジア語で言ったら、ドライバーのおじさん、私の顔をじっと見たあと一緒に降りてきた。
道路のよこで無言でふたりで立ってた。おじさん、自分のバスはほっといてイイの?
1台のバスが来るとおじさんはドライバーに何か言ってお金を渡してた。
私に乗れって目で合図する。
あわてて急いで乗った。
振り返ったら、おじさんの後ろ姿だけがみえた。また、ありがとうっていうコトができなかった。
新しく乗ったバスはがらがら。
後ろの席にすわる。
ヒッピーがひとりいて、なんかほっとしてしまう。
窓の外はどしゃぶりの大雨になってて、池みたいな水たまりを走ると2mぐらいの水しぶきを歩道に叩き付けてた。
誰か、歩いてる人をびしょ濡れにしないかな?なんて。
バトゥミの街はキライだってポーランドのコは言ってたっけ。コマーシャルな街だって。
商業的ってこと?狙って作られた街ってことなんだと思う。ドバイみたいな。
だから、バトゥミに泊まるつもりはなくて、このままトルコへ行きたい。
窓の外、雨で荒れる黒海がみえる。なぜかヤシの木が並んでた。
バトゥミに降りたら港みたいな場所。近くのバスターミナルまで歩いた。
うーん、古くて汚い。
雨に濡れて黒いアスファルトがそんな気にさせる。
うろうろしてわかった。
ココは旧バスターミナル、国境を越えるのは新バスターミナル。
歩こうかな
って思ったけど、どしゃぶりの雨がタクシーをつかまえた。
新バスターミナルは白くてきれいで人がいなかった。トルコのトラブゾン行きのチケットはすぐ買えた。
カフェでグルジア最後のごはんを食べる。
TVではテロの映像が流れてる。団地の前で黄色いレインコートを着て叫んでるキャスター。
パスタと甘く煮込んだにんじんと牛肉。
食べ終わるのが悲しいくらい美味しかった。
売店で最後のお菓子を買った。グルジア紙幣をトルコ紙幣に交換する。これでもうこの国ではお金はつかえない。
雨降ってるし、ソファでごろごろしてた。
2時間たって、いくよーっておばさんに声をかけられる。ついてくと外に停まってた小さなバンに乗せられた。
このバンで国境を越えるのかな?
バンは雨の中を走って、すこし離れた港の灰色の道路で降ろされる。
すごい雨降ってて寒くて震えた。
いっしょにいたトルコの人が帽子を貸してくれる。帽子ってホントに暖かいよね。日本だと日よけのイメージしかないけど。
雨のむこうから、ライトが眩しい巨大なツーリストバスが来た。
やっぱりトルコは大きな国、こんな大きなバスはコーカサス地方では走ってなかった。
窓の外、雨の向こう、国境がちかづくと両替のお店がふえてってる。
すごく疲れてたみたいで、いつのまにか寝てた。
国境はグルジアを出る人、トルコに入る人であふれてた。
雨でみんな無言。
通路を歩いてると天井から雨が滴ってくる。
身体が濡れて難民になったような気持ち。
国境を越えた。道のむこうに懐かしいモスクがみえた。
道路がびっくりするほど人で溢れてる。みんな乗ってきたバスを待ってるんだってわかった。
雨がすごくて屋根のあるトコに身体を寄せ合った。
私のバスはどこにいるんだろ?もう出発してて置いてかれてたりして。それに自分のバスの名前なんてしらない。区別がつくのは通路のライトの形だけだし、もし見つけても分からないかも。
もう、1時間以上も雨の中。
国境を越えてきたバスを覗き込んではライトの形を確認する。
ホントにくるのかな?こんなのメンタルもたないよ。
難民たちの苦労はこんなものじゃないんだろうけど…
1台のバスに声をかけた。乗ってきたバスじゃなかったけど、もう限界。
トラブゾンまでのお金を払って空いてる席に座らせてもらった。
バスのなかではグルジア人どもが宴会をしてた。
みんな身体がごつくて声がデカい。
座って窓の外をみてたらウォッカを紙コップに注がれてわたされる、断っても断っても飲め飲めって。
きっついウォッカ、あっというまに身体があつくなった。
なんかみんなで大声で民謡?歌ってるし。
すっごい酔ってきた。お酒なんてずっと飲んでなかった。
ドライバーに手招きされて運転席のよこに座らせられる。
あーーすごい、目の前のガラスの窓が映画のスクリーンみたい。トルコの夜の街並みが映画みたいに広がってる。トルコは文明国だよ…
星みたいに後ろに消えてく夜の街の灯り。灯りのサプライズ。
トラブゾンについたら交差点で降ろされた。
ばいばい、すごい楽しかった。
バスが走り去るとお祭りが終わって無音の夜道になった。
また、ひとりになっちゃったな。
でも、宿をさがさないと。
近くにあった宿のドアを押したら、おじいちゃん2人がカウンターでおしゃべりしてた。
ひとりはイランから来てた、懐かしさでいっぱいになって抱きつきそうになった。
あのね、イランからコーカサス通ってきたんだよ!
おじいちゃんたちは笑ってる。
部屋は新しいアパートでキッチンもあるし、部屋も2つもあって、ひとりには立派すぎ。
雨と国境でへとへとでもう安宿は探せないよ。
まあいいよって、1500円にしてくれた。
ねぇねぇ、明日いろいろ話そうよ。