メスティア 2月21日
カーテン開けたら、裏庭に雨がどしゃどしゃ降ってた。
教えてもらったトレッキング行くつもりだったんだけど、これじゃムリだね。
昨日の夜に買っておいた黒パンをベッドでかじった。
この宿のシャワールームはものすごく蒸し暑い。
だから小さな扇風機が置いてあった。
ロシア国境ちかくの山あいの村なのにね、なんで暑いんだろ?
キッチンに行くとポーランド女子がノートにぱちぱち打ってた。
お婆ちゃんが暖炉で朝ごはんを作ってくれる。
ジャムがたっぷり入ったベリーチャイはやっぱりすごく美味しかった。でもなんで?飲むとすごい汗がでる。
溜まってたお皿を洗ってキッチンをきれいにする。
お婆ちゃんは黙ってる。ポーランドのコとは昨日ずっと話してた。
3人はムリして会話するような感じじゃなくなってた。
お婆ちゃんのホントに料理上手だよね。
メスティアにはどの家にも高い塔がある。
隣人と殺し合いになったときに逃げ込むために作られたっていう塔は「復讐の塔」って言われてた。
1000年前、この地方には「血の掟」ってルールがあって…ま、いっか。
家族どうしで殺し合いするってホントかな?
でも、国や民族が殺しあうよりずっと爽やかな気がした。
通りを歩いてるとバンが横に停まった。
あ、昨日のタクシーだ。
だから、雨が降るっていっただろ?
窓を開けて話しかけてきた。
う、根に持ってる…助手席に座ってるのお子さん?
ああ、キミは俺の言うコトをひとつも信じなかった
ごめんなさい…いまはホントにそう思うから
彼はため息をつくと、アクセルを踏んで走ってった。
昨日、私はぼったくりだと思って彼の話をすべて流した。実はホントの事だけを言ってたのに。
信じれなかったのを謝るのは当然が気がした。
すこし罪悪感で胸がぎゅっとなった。それが気持ちよかった。
村の奥への坂道を歩いてると工事の人たちが向こうからじっとみてくる。
彼らとの距離はまだまだあるのだけど…遠いな、早く通り過ぎたい。
復讐の塔に登ろうとしたけど、人の家だし。どこも鍵がかかってる。
村の外れまで行くと牧草地に霧が流れてた。
濃くて暗い森と湿った牧草は映画みたい。魔女、とか出てきそう。魔女の呪いが村人をひとりひとり惨殺してく…
雨と泥と糞で汚れた石畳を巨大な黒豚が歩いてる。
このオープンじゃない村の雰囲気、ホントに血の掟はあったのかも。
なんか、メンタルがすり減ってきた…
村の反対にある博物館まで歩いてると、小さな子供がいっしょについてきた。いっしょにいてね。
博物館の前で牛たちが通せんぼしてる。
むう、これは進めない…、困ってたらハゲのおっさんが牛を追い立てた。
博物館はこんな小さな村にびっくりするぐらい綺麗で立派だった。
いちばん嬉しかったのは広い部屋にソファやクッションがいっぱいあって、本読みながらコーヒーが飲めたこと。
ソファでごろごろごろごろ、うー最高、ずっとココいたい。