ナルイン 1月2日
ノックの音。
朝ごはんあるって聞いてたけど部屋まで持ってきてくれた。
トマトときゅうりのサラダ、りんごとパンとチーズ、ヨーグルトとチャイ。
このサラダは中央アジアではよく出てきて、すこししょっぱい。
食べ終わって返しに行ったんだけど誰もいない。
カウンター裏の床に銀のプレートが並んでた。しゃがんで調理してたのかも。
ならべて置いた。
極寒のソンクル湖で生活してたせいで風邪ひいてた。
はやく直さなきゃって、たくさんお茶を飲んだり、iPhoneから音楽を流したり、ケトルで水蒸気をだしてたら部屋が白くなった。
今日はずっと宿にこもってようかな…
ごろごろしながら残してたりんごを齧ってた。
受付のコがランチいこうって誘って、その時の気持ちでいーよーって言ってしまう。
部屋でひとりになったあと気が重くなる。
風邪だし、どうしよう。部屋でごろごろしてたい。
しばらく悩んでけっきょくランチは断った。
ホントにゴメンね。
ナルインの郊外の住宅街にある宿。
静かな窓の外を学校帰りの子供たちが歩いてく、クルマがゆっくり通ってく、おじいちゃんが歩いてく。
部屋は広いし窓も広いし快適だから本を読んでた。
このままだと何もしないで1日がおわるかも。
町外れにシャシリクの美味しいレストランがあるのは知ってた。
この宿から近そうだし。
もったいない根性だなって思う。今を読書を楽しめばいいのに。
ランチを断ってたから引けめがあったンだけど、日が暮れてから行って見ることにした。
宿から町外れへ200mぐらい歩いてく。
うーん、どこだろ。なんか民家も少ないし廃墟っぽいエリア。
あたりが暗くなって地面が見えなくなった。こわい、穴があったらマズイ…足の骨折れちゃうよ。
ぽつんと野外バーベキューみたいな灯りがあった。たぶんこれかな、ほかは真っ暗だし。
野外レストラン?奥のキッチンに行ってシャシリク2本とスープを頼んだ。
前のテーブルのオバさんたちが騒いでる。
おっきいスピーカーを持ち出して大音量で音楽をならしはじめる。
そして、みんなで踊り始めた。
あ、ヤバい、これは…
やっぱり誘われた。
風邪って言っても聞いてくれないし。
お酒を断ったらコーラを注がれる、手をひっぱられる。
う、いっか、断り続けるのもカッコ悪いし。
いっしょになって踊った。
誰かの誕生日パーティーだっていってた、みんな笑ってて楽しそう。
はじめての踊り方に慣れてく身体。
月の夜、ずっとずっと踊ってた。