ポルト 2月14日
誰にもみつからないように音をたてないで歩いた。
廊下は真っ暗。深夜のリスボン。みんなパーティーにいってるから人の気配がしない。
シャワールームに入って手首に熱湯をかけた。ビリビリと電気が走るような感覚。
悪い事をしてるみたいで緊張する。
チュニジアで手首と首を南京虫にいっぱい噛まれた。その痒さは蕁麻疹より全然すごくて、抗ヒスタミン剤は効かないし、強力なステロイドも効かない、冷やしても30分で痒くなる。
2週間もつづいてて、なぜか夕方から急に痒くなる。
いちばん効果的だったのは熱湯をかけること。これで10時間は痒みがおさまった。
サハラ砂漠を目の前にしてもスマホで南京虫を調べてて、旅をしてても頭の中は南京虫のことでいっぱい。
真っ白いシーツの上をサササと走ってくる赤黒いカメムシは生物兵器だ。疲れ果てて一睡もしないで宿をでた。
今日は北のポルトで友達がまってたから。
朝の4時のリスボンはパーティーピープルでうるさい。
オレンジの街灯の下には小さなビール瓶をもった欧米人がたむろしてる。みんな大声でしゃべってる。
からまれたくなかったから、目を合わせないようにバス停まで歩いた。
海沿いにもビール片手の人たちが何人か。
バスに乗った。
車内は黄色い光でまぶしくて、みんな踊り疲れてるから窓の外は真っ暗。
リスボンのバスターミナルは巨大で寒かったから、近くのパン屋さんでパンとコーヒーを買ってベンチで朝ごはんにした。
ポルトガルの人たちはゆっくり歩く。コロナで差別されることもないし、穏やかで柔らかくて好きかも。同じヨーロッパでもこんなに違うんだっておもう。
バスは大西洋の海岸線を北へ北へ。
ポルトガルの建物にはタイルが多く使われてる。教会にも青いタイルが貼られててかわいい。
中東からタイルの文化が流れてきたの?
チェックインまで時間があったから小さなカフェでパンを食べた。
その宿はお婆ちゃんたちが経営してて、建物も家具も古かった。
窓から身を乗り出すと古くて狭い通りを見下ろす。
前をみればポルトガルの小さな屋根たち。ヨーロッパの小さな街の風景も国や地域でぜんぜん違う。
洗濯をしてTシャツを干してると、同じように干してるお婆ちゃんと目が合って二人で笑った。
シャワーを浴びて、待ち合わせの場所へ歩いてった。
誕生パーティーはDJとかするって聞いてたからセレブパーティーみたいの想像してた。
でも、年配の人たちが多くてまったりしてた。
これがマグロの一番おいしい食べ方って出された料理はびっくりするほど美味しかった。生で食べるよりずっと美味しかった。
ここはポルトガルなのに、みんな私のスローで幼い英語に合わせてくれる。
それでも速くてついてくのが大変だったけども。
みんな趣味をもってて、それを大切にしてるのが伝わってくる。この国は、みんなよりも個人のほうが大事なんだ。
誘ってくれた友達はずっと私の相手をしてくれた。
友達の誕生パーティーだったのにごめんね。
帰り道、朝までクラブに行くっていうみんなと別れた。
街灯から街灯へ、オレンジの灯りを辿って歩く。夜、ひとりになって歩いてると少しほっとした。
でも、この宿と街は好き。ずっとココにいたい。