バンデアミール 11月8日

遠くに真っ青な湖がみえる。
青すぎて工場から流れ出た有毒物質が流れ込んでるみたい。
黄色い砂漠に幾何学的に青が配置されてる。なんだか数式のようにも、ちがう惑星の景色にもみえる。

あの青い色は異常に透明度の高い水が創ってるんだって。そしてまわりの砂漠は地雷原で誰も近づけない。

「透明すぎて誰も近づけない」

人間には理解できない空間がたまたまそこにあるのかも。
たとえば存在してる次元が違うのかも。きっと時間もあの湖のまわりだけ止まってるんだ。

雪がちらちらとふってて、さわると抵抗しないでしゃりしゃりと指の間でとけた。
ふりむくとアフガン人のドライバーが湖を指さして「バンデアミール」って言った。

バーミヤンで外国人が泊まれる宿は限られてて、値段も高い。
たとえばこの宿みたいに1200アフガニとか…よくある外国人向け宿らしく、どこかお金もうけの匂いがした。
泊ってるというより泊まらされてる感覚がする。
私はそれがイヤでたまらない。それで、けさ宿を飛び出して400アフガニのチャイハネに部屋をみつけた。
英語はあまり通じなかったけど家族の空気がやさしくて柔らかい。ちいさい子供が部屋に遊びにくる。
こっちの宿にかえて本当によかった。外国人が泊っていいのかわからないけど…警察にバレなければいっかw

バーミヤンには世界遺産の古代遺跡があるけども、100km西に砂漠の真珠っていわれるバンデアミールって湖がある。
アフガニスタンに来るまで、その湖の存在を知らなかった。
バーミヤンからバンデアミールまではタクシーで1700アフガニ。シェアタクシーで行きたかったけど見つからなかった。

タクシーの走る道はちがう惑星みたいで、どこかラダックを思い出させる。ラダックと違うのはバンデアミールへの峠は他に誰もいないってこと。
途中でお爺さんを降ろしたあとは雪が薄く積もった枯れた大地を走ってった。標高は4000mを越えてた。
大きな峠を乗り越えたとき、砂漠の真ん中に不自然に青い湖がみえた。

その夜、チャイハネでは家族がいちばん綺麗な毛布をだしてくれた。
昼間は温室みたいで暑かった部屋も、夜には息が白く凍えるほど寒くなった。でも毛布を二枚重ねるとあたたかい。
子供たちと笑った。

そして警察が来た。
パスポートをチェックしたあと出て行った。
家族が申し訳なさそうに謝る。許可がないから明日は泊まらせれないって。
警察にバレなければ泊まれる…
最初からそう思って泊まりにきたのは私だから…私が悪いのだけど。

この宿以外には泊まりたくなかった。だから明日はカブールに帰るしかなかった。