ソスト 10月9日
最後にいっしょに写真を撮ろう?
そう言ったらお爺ちゃんは髭を剃ってくるって、家の奥に消えていった。
バックパックをまとめて家のまえで待ってるとお爺ちゃんが正装で出てきた。
この人はそういう人なんだなって思う…元軍人っていうのもぴったりだった。
雲南で買ったコーヒーをわたせて本当によかった。
庭のヤギたちの前で写真を撮った。お爺ちゃんの顔は眩しさで歪んでたけど…
手をふって家族と別れる。
アリザに会えなかったのは残念だったけど、きっと綺麗になってたと思う。イジュラールはすこしたくましくなってた。
次くるときにはお爺ちゃんにはきっと会えないと思う。
一本の道を歩いてく。
標高3000mを越えていても10月はまだ暑かった。
チプーサンの村の人たちが農作業をしてる。軽く手をふるだけにした。あいさつをしたらお茶に呼ばれると思う。
今はもくもくと山岳地帯の農村部を歩いていたかった。
30分ほど歩いていたら疲れてきた。ちょうどトラックがきて横に止まった。乗りなよって言われる。
パキスタンの山岳地帯は歩いてるだけで村の人たちが乗せてってくれる。別にヒッチハイクなんてする必要もなかった。
どこまで行くの?って聞かれたからキルミンって答えた。
このトラックやたらゆっくり走る。
じゃがいもを大量に積んでるみたい。チプーサンの道は舗装されてないうえに凹凸がすごい。タイヤが斜めに落ち込むたびに横転しそうになる。
それでもトラックはぐにゃりぐにゃりと揺れながらはしってく。
ふたりは話しかけるだけで笑う。フンザの人たちはみんな英語が話せると思うのだけど…なんだかふにゃふにゃとした2人だった。

気がついたらキルミンの村を通り過ぎてた。
まあいっかって思った。
キルミンの村もお爺ちゃんの村も景色はあまり変わらない。それよりもミシガルって村に興味があったから。
そうしてトラックはミシガルの村に着いた。
窓を開けて村の人に聞いたらこの村に宿はないみたい。
残念、この村で降りる理由はなくなって、そのままトラックは走り出した。
坂道を恐ろしいほどゆっくり登って、崖では川に落ちそうになりながら
トラックはのろのろ走ってく。
ときどき3人で顔を見合わせて笑った。
荒野でトラックは止まった。
荷物がずり落ちてるみたい。
みんなでトラックを降りてジャガイモの詰まった袋を荷台に持ち上げる。
あまりの重さにビクともしなくて、こんどは3人でゲラゲラと笑った。

なんとか荷台に持ち上げてから、一息ついた。
そして、ここから歩いていくよって伝えた。
とても気持ちのいい別れになると思ったから。
まだ距離あるよって言われたけど、歩きたいって言った。惜しまれるのはわかってた。
さいごに記念撮影をした。
トラックは砂埃を巻き上げながら荒野を去っていく。見えなくなるまでずっと手をふった。
トラックが消えてしまってからイヤホンをさした。
音楽を聴きながら歩きだした。
