バクー 1月26日

貨物船は東から西へ、アゼルバイジャンへ向かってた。
カスピ海は湖っていうより海で360度ぐるーっと見渡しても岸なんてみえなかった。

船の上は何もすることがなくて、空のカモメにパン屑をなげてた。

船室のベッドで読みかけの本を読み終えた。
最後だけ物語があって楽しい、そんなつまらないSF小説。

 

食堂に行くと数人のガザフスタン人と旅行者が暇そうにしてる。
そのなかに家族でクルマで旅してる人たちがいた。その子供たちの英語力が自分にぴったりだったみたいで、よく話しかけてくる。

家族でユーラシアを数カ月の旅。それってイイなって思った。

昼過ぎに甲板に人が集まってる。
上がってみると巨大な海上施設が船の横を通過してた。

オイルマネー…
横のイギリス人が言う。海上施設は石油の採掘してるのかな?
みるとひとつやふたつじゃない。いくつもの海上施設がずーっとむこう小さくなるまで続いてる。アゼルバイジャンは石油で大金持ちになった国って聞いてた。

そろそろアゼルバイジャンが近いのかもしれない。
と、ヘリコプターが爆音といっしょに貨物船の上を通過していった。

 

夜、甲板からは高層ビル群のネオンがみえた。色鮮やかなネオンが高層ビルを飾り立ててる。香港に似てる?かな…
中央アジアでこんな近代的な都市ははじめてで緊張してきた。

港に降りるとプレハブの建物がふたつ並んでる。
ひとつはカザフスタンのイミグレ、もうひとつはアゼルバイジャンのイミグレ。
両方でスタンプを押してもらってバスに乗せられる。

フランス人と明日イランの国境で会おうって約束する。
彼は小さなリュックひとつで旅をしてた。まるで少年のようで、長旅してきてるのに日焼けしてなくて生活感がまるでなかった。こんな透明感のある旅人もいるんだって思った。
また、明日ね。
きっと、イランのどこかで会えるよ。

バスに乗ってるあいだ、イギリス人とiPhoneに入ってる音楽を見せ合う。
これはOASIS?
兄弟仲良くて解散したよね。
コールドプレイは地元じゃ人気ないよ。
バンパイアウィークエンド好き?

ふたりで笑いながらバンドの話をする。UKの音楽ばかりだったけど。

バスは走り出して港の入り口まで運んでってくれた。
べつに歩いていけそうな距離だったけど。

 

旅人たちとも別れてひとりで暗い夜道を歩いてく。
アゼルバイジャンのバクー。
どこかヨーロッパみたいな雰囲気の街並み。イスラムなのにBarがあったり、石畳が続いてる。

ステップを踏んで夜道を歩いてると、日本語で声をかけられた。
日本人?
え?
泊まるとこないなら泊まっていきなよ。

なんでこんな暗いのに日本人ってわかったんだろ?
宿は今はどこもいっぱいだって言ってる。
怪しい人、でもただで泊まれるのかな?これも旅の縁かもしれない。

アゼルバイジャンの夜、旅もいつのまにか半分たってた。